パソコンやゲーム機を含む精密機器を海外へ発送する際には、通常の貨物とは異なる点に留意しなければなりません。
ひとつは軍事目的に転用されないかどうかの規制のクリア。もうひとつはデリケートな扱いを必要とする精密機器を安全・確実に配送する方法です。
さらに、ノートブックパソコンや一部の精密機器に内蔵されているリチウムイオン電池は、輸送中に発火の恐れがあるのでいくつかの制限事項が設けられています。
この記事では、パソコンや精密機器を海外に発送する際の規制や注意点をくわしく解説します。
精密機器とは?対象となる機器の種類と特徴
精密機器(精密機械)とは、電子部品などの微細な部品が高度な加工技術・組み立て技術によって構築されていて、精度の高い動作や性能を保持する機器を指します。
多くの産業や科学、医療などの分野でさまざまな種類の精密機器が使用されています。
精密機器① 医療機器
内視鏡、超音波診断装置、人工呼吸器、人工透析装置、X線透視撮影装置、ペースメーカー、CT、MRIなど
精密機器② 精密測定・分析機器
X線回析装置、地震観測機器、三次元測定機、風速計、環境測定器、熱分析装置、電位測定システム、大気汚染分析装置、ガス分析計など
精密機器③ 工作機械
旋盤、マシニングセンタ、超音波加工機、レーザー加工機、プラズマ加工機など
精密機器④ 光学機器
双眼鏡、天体望遠鏡、顕微鏡など
精密機器⑤ OA機器
パソコン、液晶モニター、コピー機、スキャナー、CADなど
精密機器⑥ 福祉機器
電動ベッド、電動車いす、介護用ベッド、各種移動用リフト、認知症老人徘徊感知器など
パソコン・精密機器の海外発送には多くの規制がある
通常の日用品とは異なり、パソコンや精密機器を海外に発送する際には特別な注意が必要です。
製品の種類やスペックによっては、安全保障上の理由で輸出が許可されない場合があります。輸出時の規制だけでなく、輸出相手国の輸入規制も確認しなければなりません。
また、アメリカ製の部品やソフトウェアを使用している場合、アメリカの規定の確認も必要です。アメリカの輸出規制国(キューバ、北朝鮮、イラン、スーダン、シリア)へ輸出するには、アメリカ政府の許可を得なければなりません。
パソコン・精密機器の海外発送時の規制①|日本の輸出規制
先進国が保有する高度な製品や技術が、核兵器などの大量破壊兵器や通常兵器の開発に利用されないよう輸出管理が行われています。
精密機器の場合、輸出管理の対象になる可能性があります。ただし、市販されている通常のパソコンは対象外です。
輸出に関する規制には「リスト規制」と「キャッチオール規制」の2種類があります。
リスト規制
リスト規制とは、武器や大量破壊兵器の開発などに用いられる可能性の高い特定の技術や貨物を輸出する場合、事前に経済産業大臣に許可を得なければならない制度です。
該当する可能性のあるものが法令によってリスト化されています(以下の表参照)。
ただし、表の例に示される品目がすべて規制対象となるわけではなく、特殊な仕様(ハイスペック)のものだけが対象となるケースもあります。
番号 | 分類 | 例 |
1 | 武器 | ライフル銃、地雷、軍用車両など |
2 | 原子力 | 核燃料物質、原子炉やその部品など |
3 | 化学兵器・生物兵器 | 軍用の化学製剤や細菌兵器の原材料となる物質、生物など |
4 | ミサイル | ロケット、その製造用の装置・工具など |
5 | 先端素材 | 航空機や人工衛星用に設計されたふっ素化合物製品など |
6 | 材料加工 | 数値制御が可能な工作機械、測定装置など |
7 | エレクトロニクス | 集積回路、超電導材料を用いた装置など |
8 | 電子計算機 | 高温や放射線照射に耐えられるように設計された電子計算機など |
9 | 通信 | 特殊な通信用の光ファイバー、監視用の方向探知機またはその部分品など |
10 | センサー | 水中探知機、反射鏡など |
11 | 航法装置 | 加速度計やジャイロスコープまたはその部分品など |
12 | 海洋関連 | 潜水艇またはその部分品、附属装置など |
13 | 推進装置 | ガスタービンや人工衛星またはその部分品など |
14 | その他 | 一部の粉末状の金属燃料や火薬・爆薬の主成分など(経済産業省令で定めるもの) |
15 | 機微品目 | 核熱源物質、簡易爆発装置の無線送信装置など |
キャッチオール規制
キャッチオール規制とは、リスト規制の対象とならない品物であっても、軍事転用される可能性が判明した場合は事前に経済産業省に許可申請を行わなければならない制度です。
リスト規制で規制されている物以外のすべてが対象(食料、木材、紙製品を除く)となっています。
「Nintendo Switch」などのゲーム機も、規制対象となる可能性があります。
ゲーム機には、半導体、通信機能、ジャイロ、加速度センサーなどが含まれているため、軍事目的に転用されないことを証明する書類(「非該当証明」)を作成しなければなりません。
ただし、「輸出貿易管理令の別表第3」で指定されている、国際的な枠組みのなかで輸出管理が厳格に行われている以下の27カ国(グループA、旧ホワイト国)についてはキャッチオール規制の対象外です。
【グループA国(ホワイト国)】
アルゼンチン、オーストラリア、オーストリア、ベルギー、ブルガリア、カナダ、チェコ、デンマーク、フィンランド、フランス、ドイツ、ギリシャ、ハンガリー、アイルランド、イタリア、大韓民国、ルクセンブルク、オランダ、ニュージーランド、ノルウェー、ポーランド、ポルトガル、スペイン、スウェーデン、スイス、英国、アメリカ合衆国 |
パソコン・精密機器の海外発送時の規制②|輸入国の規制
日本の規制だけではなく、輸出相手国の規制内容の確認も必要です。規制の内容、対象となる品目は国ごとによって異なります。
中国の輸入規制
たとえば中国には、国家の安全、人体の健康、自然環境の保護などを目的とする中国強制製品認証制度(China Compulsory Certificate system、CCC認証)があります。
CCC認証の対象となる品目は、情報技術設備や電気溶接機などです。
EUの輸入規制
EUにもさまざまな規制があるので、EUへ製品を輸出・販売する場合は注意しなければなりません。
たとえば、電気電子機器を廃棄する際は、生産者が無償で回収とリサイクルを行わなければなりません。自ら回収しない場合は、輸入者登録を行って、認定された回収スキームに加入する必要があります。
パソコン・精密機器を海外発送する際の注意点
リチウムイオン電池は危険物
リチウムイオン電池は加熱や衝撃などによって発熱・発火する恐れがあるため、場合によっては輸送できません。
ノートパソコンや携帯電話、デジタルカメラなどには、バッテリーとしてリチウムイオン電池が使われていますが、国際郵便約款などの規定では、以下のような一定の条件を満たす場合は配送可能です。
①機器に内蔵または取り付けられている ②リチウムの内容量またはワット時定格値などが一定限度内である ③リチウム電池の数量が制限範囲内である ④リチウム電池の輸入を制限していない国・地域向けの貨物である(航空便・船便によって異なる) |
ボタン型のリチウムイオン電池は危険物に該当しないので、送付可能です。
ボタン型リチウム電池は、腕時計や、デスクトップパソコン、炊飯器などの家電製品に内蔵されています。
リチウム電池は、輸出する相手国や航空便・船便によっても発送可能かどうかが異なります。船便は発火の危険性が高いので受け入れ不可能な国が多いようです。
国・地域 | 航空便 | 船便 |
韓国 | 〇 | 〇 |
中国 | 〇 | 〇 |
台湾 | 〇 | 〇 |
フィリピン | 〇 | 〇 |
シンガポール | 〇 | 〇 |
インド | 〇 | ✕ |
オーストラリア | 〇 | ✕ |
ニュージーランド | 〇 | ✕ |
アメリカ合衆国 | 〇 | ✕ |
カナダ | 〇 | 〇 |
メキシコ | 〇 | ✕ |
アルゼンチン | ✕ | ✕ |
ブラジル | 〇 | ✕ |
イギリス | 〇 | 〇 |
フランス | 〇 | ✕ |
ドイツ | ✕ | ✕ |
イタリア | ✕ | ✕ |
サウジアラビア | ✕ | ✕ |
エジプト | ✕ | ✕ |
参照:国際郵便約款 別記16 p.120
パソコン・精密機器はしっかりとした梱包が必要
精密機器は繊細で壊れやすいので、慎重に取り扱わなければなりません。
国内配送においてもていねいな梱包が必要ですが、海外配送の場合、国内配送よりも貨物の取り扱いが荒っぽいケースがあるので特にていねいな梱包が要求されます。
精密機器の海外配送の場合、以下の点に注意して梱包・配送をしましょう。
①衝撃・振動 ②温度・湿度管理 ③静電気 |
精密機器の海外配送時の梱包注意点① 衝撃・振動への対策
精密機器は振動や衝撃によって故障することがあります。大きな衝撃だけでなく細かな振動でも故障の原因となるので細心の注意が必要です。
精密機器の海外配送時の梱包注意点② 温度・湿度管理
精密機器を高温で保管すると誤作動や故障の原因になりかねません。
精密機器は内部に腐食しやすい原材料が使われているので湿度管理は特に重要です。湿度が50%を超えると腐食しやすくなります。逆に湿度40%以下では静電気発生のリスクが高まるので、輸送中も湿度を適度に保たなければなりません。
精密機器の海外配送時の梱包注意点③ 静電気への対策
精密機器に含まれる電子部品は、静電気によって回路が破壊されたりデータが損失したりする恐れがあります。
梱包の際は、「帯電防止素材」や「導電性素材」などの静電対策が施された梱包材を用いると静電気の発生を抑えられます。
配送会社選びも重要
パソコンやスマホ、精密機器は高価でデリケートなので、配送時には慎重な取り扱いが必要です。
貨物の梱包に関しても専門家ならではのアドバイスを受けられるような配送会社を選ぶのが望ましいでしょう。
精密機器配送の実績・ノウハウを確認
精密機器の海外配送に関して、実績とノウハウのある配送会社に依頼すると安心です。
大型の精密機械は特に梱包や搬送のしかたに注意を要します。大型貨物の取り扱いに慣れているかどうかも重要なポイントです。
保険や補償の内容を確認
海外配送では、貨物が紛失したり破損したりするケースも考慮しなければなりません。
トラブル発生時に適切に対応してくれるか、損害に対する保険加入の有無や補償内容は事前に確認する必要があります。
補償をしてくれたとしても、損失を十分カバーできる内容かどうかもしっかりと把握しておきましょう。
まとめ
パソコン・精密機器を海外に配送する際には注意すべきポイントがあります。
ひとつは、海外へ品物を送る際の規制の確認。もうひとつはデリケートな精密機器をいかに安全に配送できるかという点です。
精密機器を海外に配送する際には、以上の2点に考慮して信頼できる配送会社を選んでください。